今回のインタビューでは、バルセロナを拠点に活躍するデザイナーのまいさんにお話を伺いました。海外でのリモートワークの実情、多言語対応のデザインの面白さ、そしてキャリアの築き方について語っていただきました。多様な働き方や海外での挑戦に興味のある方にとって、きっと参考になる内容です。
インタビュイープロフィール
まいさんは、バルセロナ在住のグラフィックデザイナー。企業の環境活動を評価するフランスの会社で、グラフィックチームの一員として、PowerPoint資料やeBook、ホワイトペーパーなどの制作を手がける。大学卒業後は企業への就職はせず、海外留学を経て、都内のデザイン学校でグラフィックデザイン&DTPを学習。その後、海外クライアントを相手に働くフリーランスとしてのキャリアをスタートさせた。ファッションへの関心も深く、イタリアの専門学校でファッションスタイリングとフォトグラフィーを学んだ経験を持つ。フリーランスプラットフォームのUpworkでは、上位3%だけに与えられる「Top Rated Plus」を獲得している。
<記事の要約>
- 好きな時間に働き、趣味と両立させる生活スタイルを確立
- グローバルのデザインチームで日本語を生かしながら活躍
- ファッションへの想いを胸にヨーロッパへ
- コロナ禍による一時帰国を経験し、新たにグラフィックデザイナーとして再出発
- フリーランスとして海外案件に挑戦し、実績を重ねてUpworkの上位ランクに到達
- 今後の仕事とライフスタイルの目標
好きな時間に働き、趣味と両立させる生活スタイルを確立

ーーー 普段のお仕事やライフスタイルについて教えてください。
まい:普段はだいたい朝の9時ごろからカフェに行って仕事をして、お昼頃には一度帰宅してランチを取り、午後はまた別のカフェで作業しています。毎日カフェに行ってますね。
ミーティングは週に2回ほどで、一回あたり30分ほどと短いので、それ以外の時間は柔軟に働くことができます。
日によって働いている時間は様々で、趣味のダンスのレッスン時間に合わせて調整しています。例えば、午前中にダンスのレッスンがあるときは、夕方以降に長めに働いて、逆に夜ダンスがあるときは、別の時間に働けるようにしています。
ーーー すごいですね。これは海外に限らず、理想的な働き方ですね。そうなると、まいさんの場合は、日本時間ではなくヨーロッパ時間で働いているのでしょうか?
まい:はい、現在のクライアントはフランスの企業なので、日本時間に合わせる必要はなく、ヨーロッパ時間で働いています。
8人のデザイナーチームに唯一の日本人として在籍。自由な裁量のもとで活躍

ーーー クライアントについて教えてください。
まい:企業の環境活動を評価するフランスの会社で、私はそのグラフィックチームの一員として働いています。
チームはデザイナー8人で構成されていて、そのうち4人がポーランド出身です。他のメンバーもヨーロッパ出身者が中心で、アジア出身は私1人です。
ーーー 興味深いですね。そうなると、コミュニケーションは英語ですか?またポーランドの方と働く中で、印象的な点はありますか?
まい:仕事のやり取りはすべて英語です。ポーランド人の方はとても優しい方が多いですね。あと意外と細かいところは全然気にしないですね(笑)。ただ、デザインに関してはしっかり確認してくれますし、基本的には自由に任せてくれることが多いので、働きやすいです。
10カ国の言語へ対応。資料デザインのローカライズで、日本語スキルも活かす
ーーー 実際に作成しているデザインについて教えていただけますか?
まい:PowerPointプレゼンテーション、Adobe InDesignを使った企業向けのeBookやカタログ、ホワイトペーパーのデザインを担当しています。以前は英語版のデザインをもとに日本語版など多言語へのレイアウト調整を行っていましたが、今では英語版の初期デザインから担当することもあります。
ローカライズする言語は中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、オランダ語、ベトナム語、ロシア語など、さまざまな言語でのローカライズを行っています。
1言語のローカライズには約5時間ほどかかります。ページ数によりますが、1つの資料を多言語で完成させるのに2週間から1ヶ月ほどかかります。
ーーー そんなに多くの言語でデザイン作成をされるのは驚きです!知らない言語だと不安になりそうですが、調整が特に難しい言語はありますか?
まい:スペイン語とドイツ語は特に難しいです。スペイン語は英語よりも単語数が多くなりがちで、全体の文章が長くなってしまい、レイアウトのスペースを超えてしまうことがあります。一方、ドイツ語は一つの単語が非常に長く、改行が多くなるので、3段のカラムレイアウトなど横幅が細いデザインでは特に苦労します。

ーーー 言語ごとのデザイン調整はどのように行っていますか?
まい:行によってスペースが空きすぎてしまわないように、カーニング(文字の幅)を広げたり、フォントサイズを小さくしたりすることで対応しています。ハイフネーション(単語の途中で改行する手法)は基本的に使わない方針なので、いつも調整には悩まされます。テキストの調整だけで対応できない時は、ページ内の画像サイズを小さくすることもあります。
ーーー 資料系デザインのデザイナーの需要は高いと思いますか?
まい:グローバル全体だと一概には言えませんが、日本語の文字組み含めたデザインができて、かつ英語が話せるグラフィックデザイナーが少ないため、企業側も探すのが難しいという話は聞きます。実際に現在の仕事も「日本語の資料だけうまくデザインができないから、日本人を探している」といって連絡を受けたことがきっかけでした。
自分のペースで働き、好きな街を選んで生活ができるノマド生活の魅力

ーーー ノマド生活の中で気に入っている習慣や場所はありますか?
まい:やはり自分の好きなときに仕事ができることですね。趣味のダンスもあるので、「この時間にレッスンを受けたい」と思った時に自由に選択できるところが魅力です。
場所に関していえば、海がとても好きで、それがバルセロナを選んだ理由のひとつです。どこに拠点を置こうか考えた時に、大きな街に住みたいという気持ちと、海の近くに住みたいという両方の希望があって、それが叶えられるのがバルセロナでした。
もともとヨーロッパにまた住みたいという思いはずっとあって、コロナが落ち着いた2023年12月に、候補地を4つに絞って実際に旅行してみました。その中で、バルセロナの気候や人のやさしさ、街のデザインなどに触れて、直感的に「ここだ」と感じ、2024年の春に決めました。
ーーー ダンス以外の趣味はありますか?
まい:写真を撮ることですね。風景や食べ物の写真をよく撮っていて、モロッコやスペインの写真をInstagramにアップしています。バルセロナでは写真好きが集まるMeetup*のイベントにも参加しました。参加者同士で取り合うスタイルのポートレートがテーマの回に参加したこともあります。
[Meetupのイベントで他の参加者に撮影してもらったポートレート写真]
[自身のデザインポートフォリオも全て自分が撮った写真で作成]
※Meetupとは:同じ趣味や関心を持つ人たちが集まるイベント・コミュニティのプラットフォーム。各都市で多様なテーマのグループがあり、現地の人や旅人と気軽につながれるのが特徴です。
文系大学から留学経験を経て、ファッションに関わる仕事を求めてヨーロッパへ

ーーー 気になるキャリアについてもお聞かせください。まず、大学では何を学んでいましたか?
まい:大学ではコミュニケーション学を専攻していて、デザインとはまったく異なる分野を学んでいました。プレゼンテーションや、リーダーシップ、1対1での対話の方法などです。今でも一番役に立っていると感じるのが、「異文化コミュニケーション論」ですね。海外のいろんな国の人と、どうやってコミュニケーションをとるか、日本人だと遠回しに伝えた方が良いような場面でも、他の国ではダイレクトにはっきり伝える方が良いとされることもある。そういった違いを知れたのは、今の仕事に活きています。
英語も必修の授業と、長期留学向けの準備コースを受講してそこでみっちり勉強しました。第二外国語としては最初にスペイン語を1年間学び、その後イタリア語にもチャレンジしました。
ーーー 海外に興味を持ったきっかけは?留学もされましたか?
まい:子どもの頃から海外に憧れがありました。中学生の時にはテイラー・スウィフトにハマって、洋楽を聞いたり、アメリカのドラマを見たりするのが好きでしたね。
初めての海外渡航は、高校2年の夏休みに行ったアメリカ・カリフォルニアでの語学留学です。ホームステイも経験しましたが、当時は英語がまったく話せませんでした。
大学在学中には大学のプログラムでフィンランドへ4ヶ月留学し、大学の専攻と同じコミュニケーション学を学びました。
そして卒業後すぐにイタリアの専門学校へ留学しました。ミラノの専門学校で1年間、ファッションのスタイリングと、ファッションフォトグラフィーという、ファッション雑誌の写真の勉強をしました。その経験は現在の仕事にも活きていると思います。Photoshop、Illustrator、InDesignなどの基礎もこの時に初めて学びました。
ーーー イタリア留学のあとは、どのような進路を考えていましたか?
まい:イタリアでスタイリストとして働きたいと考えていました。ただ、イタリアはコネクション重視の社会で、ビザの問題もあり、現実的には難しかったです。学校の先生からも、「パーティーやクラブに行って、ネットワークを広げてアシスタントから始めるといいよ」とアドバイスされました。
その後、語学学校に通いながらもう1年イタリアに滞在していましたが、やはりイタリアでの就職はハードルが高く、別の道を考えるようになりました。そこで、ワーキングホリデーで滞在可能なフランスへ行くことにしました。フランスではオンラインの英語講師として働いたほか、パリのファッションウィーク期間中にショールームのアシスタントとしても働くことができました。
ーーー ここですでにリモートワークを始められていたんですね。そして念願のファッションの現場にも!
コロナの影響で一時帰国。デザイナーとしての道を選択

ーーー コロナ禍での生活はどうでしたか?
まい:ファッションウィークの直後にコロナが始まり、日本に帰国せざるを得ませんでした。その後もう一度フランスへ戻ったのですが、コロナの影響で仕事もイベントもほとんどなく、ワーキングホリデーの期間終了とともに日本に帰国しました。
帰国してからはファッション関係の短期アルバイトをしていたのですが、このままではダメだと思って、グラフィックデザインの学校に申し込みました。雑誌や写真の編集など、ファッションとの共通点もあると感じていました。
《まいさんが通った学校》
東京デザインプレックス、グラフィックデザイン&DTP 3ヶ月コース
東京デザインプレックス公式サイト
ーーー やはりファッションへの想いがベースになっているんですね。デザイン学校では何を学びましたか?その後の進路についても教えてください。
まい:IllustratorやInDesign、Photoshopの操作方法を中心に、リーフレットやビジネスカード、ポスターなどを制作しました。実践的な作品を通してポートフォリオを仕上げる構成になっていて、就職活動にすぐ活かせる内容でした。通学は週3でしたが、課題の提出も多かったので、自宅でもずっとデザインに取り組んでいました。
卒業後は、まだコロナの影響も残っていて、海外での挑戦は難しい状況でした。日本のグラフィック事務所への就職も考えましたが、カルチャー的に自分に合わないのではと感じる部分もあり、最終的には「やっぱり海外の方が合っている」と感じ、海外企業と関わる働き方を選びました。
海外クライアントへの仕事に挑戦!下積み経験を重ねてUpworkで上位フリーランスに

ーーー 海外クライアントとの仕事を始めたきっかけや、仕事獲得のために実践したことを教えてください
まい:オンラインでフリーランサーとして海外の仕事ができる方法はないかと探していた時に、Upworkに辿り着きました。当時は日本語の情報もほとんどなかったので、海外のブログやYouTubeでプロフィールや提案文の書き方を学び、研究しながら、毎日Upworkで案件をチェックしてひたすら応募していました。また、実績がないうちは「Expert」のチェックを外して、初心者向けの仕事に絞って応募していました。
ポートフォリオはデザイン学校で制作した作品を使っていました。街歩きのシティガイドや、日本らしさをテーマにしたお米のパッケージなどを作成しました。自分でコンセプトも考えて形にしたものです。


ーーー こまめに案件をチェックしたり、プロフィールなどの改善をするのは大事ですよね。最初はどんな仕事を受託していましたか?
まい:デザインの仕事に絞っていましたが、最初はかなり低単価の案件でも引き受けてました。正直、普通にアルバイトをした方がよっぽど稼げるような金額でしたが、まずは実績を積むことを優先しました。
ーーー Upworkで実際に受けたデザイン案件を教えていただけますか?デザイン制作を受注する際のお仕事の流れも教えてください
まい:初期の頃に、中東の企業向けにリンゴ酢のパッケージデザインを制作しました。他にも、ヨガグッズを扱うクライアントのカタログデザインなども担当しました。


リンゴ酢の案件では、クライアントからロゴやテキストなどの素材が支給され、「シンプルなデザインが良い」といった希望を伝えられました。私からは、色味やグラデーションの使い方など提案して進めていきました。
ーーー 海外クライアントと仕事をしていて、文化の違いで苦労したことはありますか?クライアントとの信頼関係を築くために意識していることがあれば教えてください
まい:すでに海外に2年以上住んだ経験もあったので、文化的な違いで困ったことはあまりありません。ただ、テキストだけで連絡を取らないといけないので、デザインの話になると直接会えないのは難しいと感じることはありましたね。対面で話せない分、スクリーンショットに書き込みを加えて共有するなど、工夫をしています。
他に意識していることは、「わからないことは必ず聞く」ですね。曖昧なまま進めると、どちらも得をしないので、しっかり確認するようにしています。
「求められるものをなるべく詳しく教えて欲しい」とお願いをしたり、グラフィックなどは似ている画像があれば送ってもらうようにしています。文字だけのやりとりよりも、ビジュアルがあると理解が深まります。ムードボード*があればそれもお願いしています。
※ムードボードとは:デザインの方向性を共有するために、写真・色・素材・レイアウトなどの参考イメージを集めてまとめた資料のこと。
ーーー Upworkで上位3%しかいないTop Rated Plusを取得されていますよね。どんなお仕事が評価されたのでしょうか?
まい:私も自分では絶対に取れないと思っていました。最初1年くらいは本当にお金にならなかったので…。
以前に連絡をくれたクライアントさんが、Top Rated Plusの評価対象となる大規模企業だったようです。こちらも今のお仕事と似ていて、日本語のカタログレイアウトをするお仕事でした。
これから海外クライアントと働いてみたいデザイナーさんへ

ーーー これから海外クライアントと働いてみたいデザイナーさんへ向けてアドバイスをいただけますか?
まい:最初は「不可能かな」って思うかもしれないんですけど、本当にやりたいと思っているなら、絶対にできます。私もUpworkを始めた当初は、それだけで生活できるようになるとは思っていませんでした。
ーーー 今、まいさんがゼロからスタートするとしたら、何から始めますか?
まい:やはり言語ですね。高校生の頃からもっと英語に力を入れておけばよかったと思います。もともと英語自体は好きだったのですが、受験やテストのための勉強はあまり好きになれず、それにかなり時間と労力をかけてしまいました。もっと早い段階で長期留学などの環境で、「活きた英語」を身に付けたかったなと思います。
あとは、高校生の頃からファッションに興味があったので、その頃からファッションやデザインに関して本格的に学べばよかったなと思います。
ーーー 高校生のうちに自分の興味を行動に移すのは難しいですし、そもそも選択肢が見えにくいですよね。若い学生にも、もっと多くのチャンスが開かれているといいですよね。
まいさんのこれから:ファッションと海外での暮らしを軸に

ーーー 今後挑戦してみたい仕事や生活面での目標を教えてください
まい:ファッションに関わるお仕事を受けていきたいです。例えば、ファッション関連のポスターやビジュアルの制作、ファッションブランドのInstagram投稿の作成にも興味があります。レストランのメニューを作るようなデザインにも携わってみたいです。今住んでいるスペインでもそういったお仕事ができたら嬉しいですね。
生活面では、数年後もヨーロッパに住み続けたいと思っています。スペイン、イタリア、フランスなど自分の好きな国で暮らしていけたら理想です。
ーーー まいさん、インタビューのご協力、そして貴重な体験談の共有をありがとうございました!

まとめ
本インタビューでは、バルセロナ在住のグラフィックデザイナー・まいさんの経験を通して、海外で働くリアルな一面と海外クライアントとの仕事の魅力に迫りました。多言語に対応したローカライズや、異文化間でのコミュニケーションの工夫、そしてゼロからキャリアを築いてきたプロセスには、多くのヒントが詰まっています。これから海外クライアントとのデザインの仕事に挑戦したい方にとって、少しでも参考になれば幸いです。